現在の年金制度では多くの人の年金受給額が十分ではありません。その上5つの老後特有の要因によって十分年金が貰える人でも下流老人化する危険性があります。
では下流老人とはどんなものでしょうか?
「収入が少ない」「貯蓄が少ない」「人との関わりが少ない」の3つの「ない」が揃ってしまうと、いざというときの出費に事欠いたり、必要な医療を受けられなかったり、疾患で動けなくても気づいて貰えず孤独死しがちです。
下流老人になるリスクを避けるためには現役時代から「貯蓄」「年金アップ」「人とのつながり構築」の3点を心がけましょう。
その際には中流意識は邪魔です。今や多くの人にとって下流老人化するリスクはあるのです。
現在65歳の人の場合の年金受給額ですが、生涯年収400万円(生涯月収38万円)でも貰える年金額は月額約16.5万円と20万円には遠く及びません。
しかも現在の制度上で厚生年金の方の場合の金額です。国民年金の方の場合は収入に関係なく約6万5千円です。更に少子高齢化が進んでいるので現在の制度よりも年金額が減ったり、65歳ではなくもっと年金支給開始年齢が上がることが予想されます。
生涯年収とは生涯の給与・賞与収入の総計を勤続年数で割った生涯の年収の平均です。新卒でも年収400万円も貰えた人はバブル期の金融機関に勤めていた人位ではないでしょうか?退職金はこの場合の年収に入れません。
本当に生涯年収400万円が現実的な数字かどうか見てみましょう。
DODA 平均年収/生涯賃金データ2014
http://doda.jp/guide/heikin/
このグラフを見てみると全体の平均の最も多い分布が生涯賃金が300万円以上~400万円未満。生涯賃金が300万円未満の人と合わせると48%の人の生涯賃金が400万円に達していないことが分かります。
仮に今45歳で年収が700万円でもその後年収がアップするどころか同じ会社に勤続していながら50歳過ぎてから年収がダウンする人も大勢います。生涯年収がそもそも400万円であっても、月額16.5万円しか老齢厚生年金が貰えないのです。
厚生年金に加入していてもおよそ半数の人が月額16.5万円以下の年金しかもらえないことになります。年金頼りの老後設計は大変危険であることが分かります。
しかし老人の下流化の問題は年金が十分受け取れる高収入の人や、夫婦ともに厚生年金に加入している人が安泰とは限りません。
朝日新書の「下流老人」藤田孝典 著 によると現役時代に中流の生活だった人でも安心できません。老後に下流になってしまう場合には大きく以下の5つのパターンがあると言います。
高齢になればおのずと病気になりやすい上、自宅内で転倒しただけで骨折してしまうことなどが実際にあります。
自動車事故も被害者になるだけでなく、加害者になって多額の損害賠償金を支払うことになるケースも特殊なケースではないのです。
長寿になって、健康体で働ける期間に匹敵する程の期間を老後の期間として過ごすほどの長寿社会になる一方、核家族化で病気・ケガの介護を家族が面倒みられないことも要因になります。
高齢者介護施設いわゆる老人ホームに入居したくてもできないということが現実問題としてあります。
入所までに3~5年待ちはザラです。一方、民間の会社が運営する「有料老人ホーム」は入居時に数百万円必要な上、月額料金も20万円以上必要な所が多いです。
国民年金しか加入していない方にとっては、とても支払える金額ではありません。
子供に頼ろうにも子供が若くして下流化している場合、逆に親がいつまでも成人した子供の生活を支えるというケースも珍しくありません。
総務省統計局の就業構造基本調査をみると年々非正規雇用者の割合が増えている実態が分かります。
増加率に関していえば男女ともほぼ同じ様に増えています。男性でも労働人口の22.2%が平成24年度の調査では非正規雇用者になっています。
国税庁が行う民間給与実態統計調査の平成24年のデータでは正規雇用の平均年収が467万円に比べて、非正規雇用は168万円です。注意したいのは非正規雇用の中には会社役員クラスの仕事をして何千万も年収を貰っている人も含まれていて、平均を押し上げている点です。一般的な若い非正規労働者の年収はもう少し低い金額になることになります。
非正規雇用でも働いていればまだよく、引きこもりだと生活費や医療費は年老いた親の肩にのしかかってきます。
熟年離婚すると慰謝料を支払ったり、相手が引き取った子供の進学資金の面倒をみたり、家も妻に譲ったりして男性の下流老人化のきっかけになることが珍しくありません。
厚生年金もたとえ妻が専業主婦であっても、妻の役割なしには夫は会社務めをやりおおせなかったとされ、結婚生活の間の厚生年金部分の半分も妻のものになります。
人との関わりがない孤独な老人が認知症になってしまうとお金の管理も出来ずにオレオレ詐欺だけでなく、訪問販売などで法外な値段のものを買わされてしまうことも珍しくありません。
悪徳業者のカモになってしまい財産を失ってしまうほど散財しても認知症でしかも周りに頼れる人がいないと発覚が遅れてしまいがちです。
貧困状態でも、下流老人というレベルまで生活の質を極端に落とさないで楽しく暮らしている人も実は大勢います。
どんなに、貯蓄をしていても、年金支給額が多少多くても下流老人になってしまう人も逆に大勢います。
その差は「人間関係」にあると前出の「下流老人」の著書の中で藤田氏は指摘しています。
人間関係は積み重ねです。若い現役時代から家族や地域の人とのコミュニケーションを取っておくと万が一の時にお金は出して貰えなくても、手を差し伸べて貰えます。
下流老人とは以下の3つの要素が重なっている状態と藤田氏は定義しています。
1.収入が著しく少「ない」
2.十分な貯蓄が「ない」
3.頼れる人間がい「ない」
受給年金が大幅にアップする程、年収をアップすることは難しいです。そもそも現在の年金制度自体に頼る事が難しいからです。
老後も働くつもりでいても、健康上の理由で思った程働けないという事も十分あり得ます。「貯蓄」と「年金アップ術」と「人とのつながり構築」を現役時代に実践してみましょう。
退職金があるからと言って安心できません。この10年間で退職金はどの学歴でも減っているのが現実です。
正社員であっても零細企業などの場合、退職金制度自体がないことも珍しくないです。また非正規雇用であれば退職金は当然ありません。
現役世代のうちから、貯蓄していくのが堅実な方法です。自分の支出をまずは把握しましょう。
2~3か月で良いので家計簿をつけることがおススメです。今は便利なアプリも出ています。支出の中で注意したいのが「必須な支出でないもの」です。
皆が加入しているからケーブルテレビに加入するとか、外食を毎週何回もするなどの支出は将来下流化を懸念している家庭では過剰な消費ではないでしょうか?見栄などは捨ててシンプルライフを目指してみませんか?
貯蓄の仕方は人それぞれですが、3つの銀行口座を持って管理することを勧める案があります。
家計再生コンサルタントの横山光昭氏によれば、現在の収入と支出を把握してお金を整理する為に、3つの銀行口座を目的別に使い分けることが有効な手段として紹介されています。
a.使う口座
毎月の生活費を入れておく口座。夫の給与振込口座で公共料金や子供の教育費の引落しなどをこの口座に集約すれば毎月の生活費は通量1冊で管理できます。
共働きの場合などで生活費の口座引き落としが夫婦の通帳で分散している場合も、1つの通帳に統一した方が家計の管理はしやすく、無理無駄がありません。
この口座にはそれほど多くの金額は残しておかずに生活費の1.5か月分程度の残高が常にあるようにしておくと不意の出費にも大抵の場合、貯蓄には手を付けないでおけます。(前出の横山氏)
b.備える口座
万が一の時にだけ使う口座。6か月分の生活費を入れておくのが目安と横山氏は言います。すぐに下せるように普通預金か定期預金で持っておくとおろしやすいです。
c.殖やす口座
a、bの2つの口座を使ってお金の整理をすれば増やす口座にまわせる金額が分かります。もちろんこの口座は銀行口座に限らず証券会社の口座でも構いません。
ただし、証券会社の場合はペイオフの対象外です。ペイオフとは銀行の口座の場合は1000万円の預金をその金利分は銀行が倒産しても保障の対象ですが、証券会社の口座はその対象外です。しかし銀行預金にしていても金利があまりに低いのでまず、殖えません。
銀行でも投資信託などの取り扱いがありますが投資信託の場合はペイオフで保障する対象外になってしまいます。
a.個人型確定拠出年金に加入する
年金額を殖やすための1つの方法です。国民年金加入者の多くは収入が多くても年金額は一定です。
その分余計に貯蓄する必要がありますが、その選択肢の1つとして、個人型確定拠出年金に加入する方法があります。厚生年金加入者であっても、加入できる場合があります。
●個人型確定拠出年金の加入資格
ア.国内に居住している20歳以上60歳未満の自営業者とその家族、自由業、学生など国民年金の第1号被保険者
イ.60歳未満の厚生年金保険の被保険者(国民年金の第2号被保険者)
ただし、以下の方は加入できません
◇勤務先で、企業型確定拠出年金に加入している人
◇勤務先で厚生年金基金、確定給付企業年金、石炭鉱業年金基金のいずれかに加 入している方
◇公務員など共済組合に加入している方
◇厚生年金や共済組合に加入している方の被扶養配偶者の方(国民年金の第3号被保険者)
●個人型確定拠出年金のお得な点
ア.全額所得控除になる
生命保険会社が販売している個人年金の場合は最大でも4万円までしか所得控除できませんが、個人型確定拠出年金の場合は支払った年金保険料が全額所得控除になります。
イ.原則老齢給付金が60歳から受け取れるので、65歳の国民年金支給開始前から
年金を受け取れます。
ウ.投資先を自分で選べる
自分の持ち分(年金資産)の運用方法は加入者個人で決めることが出来ます。
エ.積み立てた年金資産を他の年金に持ち運びが出来る
例えば、個人型確定拠出年金に加入できない厚生年金基金がある企業に転職しても年金資金を転職先の企業型年金に移換できます。
●注意点
ア.運用リスクは自己責任
運用方法を加入者個人で決め、運用リスクは加入者個人が負うことになります。
イ.掛け金の全額が自分の持ち分(年金資産)になる訳ではありません。
事務費などの手数料がかかります。
ウ.年金額が事前に確定しません。
生命保険会社が販売する個人年金(確定型)のように受け取れる額が事前にわかることはありません。運用成績によって決まります。
エ.掛け金を途中で引き出すことはできません
生命保険会社の個人年金のように掛け金を途中で引き出すことができません。そのため、途中で止めたくなっても個人年金の解約返戻金のような制度はありません。
b.国民年金の方限定の自分年金アップ術
●付加年金
フリーターや非正規雇用など生活に余裕がない場合でも年金アップする方法はあります。月額400円、国民年金に付加年金を付加する方法です。リターンは年金額にして月額200円と少ないですが、2年で元が取れる方法です。
●国民年金基金に加入する
国民年金基金に加入する方法もあります。掛け金は付加年金より多くなりますが、年金の受給方法などが選べる上、国民年金基金も全額所得控除の対象になります。
*付加年金と国民年金基金両方を利用することは出来ません。
c.個人年金(主に生命保険会社が販売)に加入する
年金を自分でアップするというとこの方法を真っ先に考える方も多いと思います。
年額4万円まで、保険料が所得控除できるので節税効果も若干あります。
●注意点
たまに、支払保険料よりも受給する年金額の総額の方が少ない個人年金商品があります。金利が低い現在、生命保険会社の予定利率もかなり低いのが現状です。少なくとも元本割れしない商品選びが大切です。
人とのつながりがない人は孤独なだけでなく、様々なリスクにさらされています。家族や親せきとのつながりや、地域の人とのつながりが老後の最後の砦になるケースもあるのです。
仮に認知症になっても孤独な場合は自分では自覚しつつも認めたくない心理が働いて自発的に医療機関に行くことは少ないと言います。
しかし、人と交流があればある程度進行してくると誰かに気づいてもらえて、医療機関への受診のきっかけになるケースもあります。
認知症患者は高齢者の増加に伴って増えています。
特に独り暮らしの方が認知症になると多くの場合、生活自体が成り立たなくなりやすくなります。今は夫婦2人暮らしであっても、どちらかが死亡すれば子供などと同居を始めるなどしない限り1人暮らしになってしまいます。
現役時代からなるべく積極的に地域の人と交わり、将来の茶飲み友達を作っておくと良いです。
特別なことをしなくても、町内会の行事になるべく参加するとか、町内の趣味のサークルに参加するとか、出来れば地域で活躍するボランティア団体でボランティアするなどしてみましょう。
地域に人の輪が出来ると万が一、1人暮らしで自宅で動けない程、体調を崩しても人に気づいて貰えて孤独死は最低でも避けられます。
団塊の世代が老齢期を迎えつつある上、若年層も一生懸命に働いても豊かな生活が送れる時代は過ぎて、日々生きるのが精いっぱいという若い世代も増えています。
それでは少子高齢化が更に進むことになり、一層老人を支える若い人が減るという悪循環に日本は陥っています。自衛努力出来ることは限られているかもしれません。
「貯蓄を勧められてもそんな余裕がない」と思われるかもしれません。しかし、今一度生活を見直して中流意識という幻想を捨てる時ではないでしょうか?
プライドを捨てれば「世間並」であるための出費は大幅に削れます。衣食住は足りていればよしとするようなライフスタイルの見直しも必要かもしれません。
人生何が起こるか分かりません。現在十分な収入があっても、油断できないのが日本で迎える老後です。決して生活保護世帯や生活保護以下の年金で暮らす人の生活が対岸の火事ではないのです。
2016年1月22日更新 Salaree編集部
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